五感を使う「造形あそび」で子どもの感性と生きる力を育む
<こどものにわ>

団体と助成の概要

 

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 福島県二本松市では、原発事故による放射線の影響から思い切った子どもの野外活動を控えている家庭が今もあり、子ども同士の交流の機会や自然に触れる機会が減っています。同市出身で、子どもの造形美術教育の専門家・櫛田拓哉さん(東京都羽村市「こどものにわ」代表)は、「土や水など自然素材を使ったものづくりや、皆で一つの作品を創り上げる体験を通して、子どもたちが豊かな感性や助け合いの心を育めるように」と、震災後間もない2011年5月から避難所や公民館で「造形あそび」のワークショップを続けてきました。

 そして「一過性のイベントではなく、日常的に子どもたちが創作活動や交流が楽しめる放課後の居場所が必要」と、2013年9月、二本松市油井地区に「ふくしまグリーンキャンバス」をオープン。未就学児と小学生を対象に月2回のワークショップと、週2回、子どもが自由に遊べる「放課後ひろば」を開催し、子どもからも保護者からも好評を博しています。

 

好奇心を刺激し、生きる力を育む「造形あそび」 

 「私の原点は、幼少期に二本松市の豊かな自然の中で育ったこと」と櫛田さん。故郷の子どもたちが「心身の成長の大事な時期」に野外で思う存分遊べないことに心を痛めつつ、「体と五感を使う造形遊びを通じて生きる力を育み、震災を乗り越えてほしい」との思いを強くしたといいます。

 毎月1~2回程度、月曜日の放課後に開催する「造形あそびワークショップ」では、土を丹念に丸めて光沢を帯びた球体に仕上げる「泥だんごづくり」、数千個の紙コップを積み上げて塔や家をつくるあそび、個々の子どもが好きな色で染めた紙をつないで完成させる「壁画づくり」など、子どもの好奇心を刺激するユニークなプログラムを実施。「多年代の子どもが仲良く遊べて、『力を合わせて作品をつくる』楽しさが体感でき、またものごとをいろいろな角度から捉えられるようになるよう」専門家ならではの工夫を凝らしています。

 

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事務局の櫛田孝子さん(左)、スタッフの三浦福恵さん、下条真美さん(右)と、櫛田拓哉代表。
子どもたちが創った「壁画」の前で。

 

全国から寄せられた土で泥だんごづくり 

ワークショップの中でもとりわけ反響が大きかったのが「泥だんごづくり」。活動を始めた当初は市内の除染が進んでいなかったため、北海道から沖縄まで全国13カ所から届けてもらった土を使ったところ、「沖縄の土にはサンゴ混じり、別の土地の土は黒々して粘りがあるなど、土にも地方色があり触感も違う。子どもたちはその違いを確かめながら夢中になって泥だんごを作って、福島にいながら全国を旅する気分を味わい、人とのつながりにも気がつきました」(櫛田さん)。

そして「泥だんごの中から虫が出てきた」「植物の芽が伸びてきた」といったハプニングが起きることもしばしば。「次は何が出てくるかな」と子どもたちは興味津々。土が生命を育てていること、そして自分たちもまた自然の一部であることを体験的に学びました。

 

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時間をかけて丸め、乾燥させ、磨き上げるとぴかぴかに光り出す「泥だんご」。
植物の芽が出てくることもあり、子どもたちは大喜び。

 

自由に創作活動が楽しめる「放課後ひろば」 

 「放課後ひろば」(毎週火・金曜日の午後開催)には、現地採用した2名のスタッフが常駐。子どもの自主性を重んじ、その日の過ごし方は子ども自身が決めます。「小学生は、連絡シートに予定を書いてから活動を始めるのがルール。要素としてはおやつ・宿題・あそび(創作活動)の三つですが、『まずは宿題を終わらせよう』『今日は時間いっぱいあそぶ』など、まず自分で計画を立てることが大切」と櫛田さん。

 あそびのメニューは盛りだくさん。室内には、壁飾りづくり・クラフト制作・落書きアートなどのコーナーがあり、自由に創作活動が楽しめます。

 一方、皆で一緒にものづくりを楽しむ機会も大切にしており、毎月およびシーズンごとに「おやつづくり」「クリスマスの飾りづくり」などテーマを決めて共同制作を実施。その一つ、1月からスタートした「季節の木」は、厚紙で作った「木」に子どもたちが思い思いの造形を貼り、季節を表現するというもの。「身近な自然に関心を寄せてほしい」という狙い通り、冬眠中の虫や動物・木の芽・若葉などを描いたいろがみが次々に貼られ、木も子どもたちも成長を続けています。

 

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「壁飾りづくり」のコーナー。木の実・落ち葉・サンゴ・鳥の羽・木片など
多様な素材が用意され、子どもたちが自由に制作できる。

 

活動の長期的な継続と広域化を目指す 

 「ふくしまグリーンキャンバス」という名前には、「ここは子どもたちの創造の場」という意味合いと「太陽に向かって伸びる緑のように健やかに育ってほしい」という願いが込められているとか。実際、部屋の壁面は子どもたちの作品で覆われ、ものづくりに興じる子どもたちの表情は生き生きと輝いています。

 保護者からは「家の中でゲームばかりしていた子どもがここには喜んで通い、友だちも増えて明るくなった」「山林の除染が進み、子どもが野山で遊べるようになるにはまだ時間がかかる。これからも活動を続けてほしい」といった声が多く聞かれます。

 「今後は『放課後ひろば』の開催日を増やし、活動範囲も県内全域に広げたい」と櫛田さん。そのため人材育成にも力を入れており、スタッフが「造形あそび」の指導者として活躍できるよう内部研修を実施しています。2014年度には市内の保育所や幼稚園を訪問してワークショップを行い、日常的に子どもと関わる先生たち対象の研修会も開催する予定。東京と福島を往復する多忙な毎日ですが、「より多くの子どもに学びと遊びの場を提供したい」と、日々奮闘しています。

 

(2014年1月インタビュー実施)