子どもの笑顔を生み、地域の人と人をつなぐ遊び場づくり
<創作農家こすもす組合>

団体と助成の概要

 

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 東日本大震災で甚大な津波被害を受けた岩手県釜石市では、公園や運動場の多くが仮設住宅の用地に充てられたため、子どもの遊び場が不足しています。市南西部の甲子(かっし)町で産直レストランを運営し、地域活性化に取り組む「創作農家こすもす組合」の藤井了(さとる)さんとサエ子さん夫妻。「子どもたちが1日も早く笑顔を取り戻せるように」と2012年6月、約3,000㎡のコスモス畑を一新して「こすもす公園」をオープンしました。手づくりの遊具や東屋・展望台・農園などを設置し、無料で開放しています。

 またピザ焼き・畑づくりといった「体験学習」の機会づくりに取り組む他、「復興に向けて皆の心が一つになれるように」と毎月様々なイベントを開催し、地域の交流拠点として多くの人に親しまれています。

 

公園づくりのきっかけとなった二つの出会い

 約1,000戸の仮設住宅が建設された甲子町の中央部に位置する「こすもす公園」。「市民として何が出来るかを考えていた矢先、近くに避難して来た子どもの日記を目にしたことが開設のきっかけでした」と藤井さん。自宅が流され、避難所に逃れたものの死を覚悟したという9歳の女の子の文章に心を打たれ、「思いきり遊ぶことで心を癒してほしい。子どもが元気になることが復興の第一歩」と、敷地の提供を決意。

 その直後の2011年夏、もう一つの出会いがありました。ボランティアとして釜石市を訪れていた外国人グループに食事を提供したところ、そのうちの一人が、千葉県で環境に配慮した「循環型農業」を実践していたことから、「お礼に」と協力の申し出があり、公園づくりがとんとん拍子に。「裏山の木を切り出して滑り台やブランコをつくったり、排泄物が自然に還る仕組みのコンポストトイレを設置したり。専門的な技術の要る作業を、無償で行ってくれたんです」。

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こすもす公園にて代表の藤井サエ子さんと藤井了さん。
後方のユニークな遊具は、公園のシンボルともいえるピノキオすべり台。

 

子どもの笑顔に大人も癒される

 多くの人の善意によって実現した「こすもす公園」は、地域の子どもの希少な遊び場であり、大人にとっても憩いの場。ケヤキの大木でつくった「ピノキオすべり台」は公園のシンボル的な存在で、台座を支えるピノキオのユーモラスな造形は訪れる人を思わず笑顔にします。

 広い園内には遊具類の他、摘み取りOKのブルーベリー畑や自然に親しみながら自由に遊べるスペースを設けているのが特長。スケートボードで遊ぶ小学生、ウッドチップを敷きつめた園内で追いかけっこに興じる幼児など、子どもたちの顔は生き生きと輝いています。そして思う存分遊ぶ子どもを見守りながら、大人は東屋でひと休み——といった光景が日常的。「震災後、子どもが激しく夜泣きするので親としても見ていてつらかったけれど、ここで遊ぶようになってから収まった」と話す母親も。

 また、釜石市沿岸部や隣の大槌町の幼稚園・保育園の子どもがバスで遠足に訪れることもしばしば。「子どもが楽しそうに遊んでいる姿を見ていると、癒すつもりだった私たちの方が癒されます」と、藤井さん。

 

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釜石市内外の幼稚園・保育園の遠足にも利用されている。
思う存分遊んだ後、広い庭にシートを広げてお弁当を食べる子どもたち。

 

「食」や「農」の大切さを伝える学習体験

 親子対象の「体験学習」にも力を入れており、2013年にはピザづくり・野菜づくり・泥だんごづくりなど計12回実施しました。特に人気が高いのは園内に設置した石窯でつくるピザ焼き体験。子どもたちは手間のかかる生地づくりにも熱心に取り組み、焼き上がったピザが窯から現れると歓声が。保護者からは「料理の楽しさと大変さが分かったのか、よくお手伝いしてくれるようになった」という声も聞かれます。

 野菜の種蒔きや収穫をする農業体験も好評。「泥んこになっても怒られないというだけでもうれしいんでしょうね。土いじりしている時の子どもは本当に楽しそう」(藤井さん)。採った野菜はその場で調理して食べるのが常で、「苦手なはずのものでもおいしそうに食べています」。また近隣の仮設住宅に「私たちが育てた野菜です」と届けて喜ばれることも。食育の一環であると同時に、地域の主産業の一つ・農業の大切さを子どもが体感できる機会ともなっています。

 

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鎮魂と未来への希望を込めてローソクに点灯した後、コンサートを楽しむ「キャンドルナイト」。
毎年、300人前後の市民が参加。

 

イベントを通して地域の人の心をつなぐ 

元々、地域づくりに積極的に関わってきた藤井さん夫妻にとって「同じ釜石市に住みながら、被災して多くのものを失くされた方がいる一方、我々のように被災を免れた者もいる」ことは心の痛む現実でした。「仮設住宅に転居して来られた方の気持ちは、元からの住民には理解が及ばないところがある。だからこそ心の溝を埋めるのが我々の責務ではないかと」。そのような思いから音楽会や季節にちなんだ交流会など「地域の人が一体となって楽しみ、気持ちを共有できるイベント」を毎月開催。中でも、鎮魂と復興への願いを込めて2,000個のろうそくに点灯する夏至の夜の「キャンドルナイト」は、毎年多くの市民が集まる恒例行事となっています。

「仮設住宅が完全に解消し、公営の施設が復旧するまではなんとしても『こすもす公園』を存続させたい」と藤井さん。子どもが安全に遊べるよう見回りや遊具の保守点検をする人材の確保が課題でしたが、徐々に地域の中でも活動に関わる人が増えてきました。「地域の人に参加・協力してもらう市民運営型の公園」を目指し、活動を続けています。

 

(2014年4月インタビュー実施)