電話の声に耳を澄まし、子どもの気持ちに寄り添う
<チャイルドラインこおりやま>

団体と助成の概要

 

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 子どもの悩みに対応しようと、行政などで「いじめ」「虐待」など様々な電話相談窓口が設置されています。そんな中「チャイルドライン」は、そのどれにも当てはまらない漠然とした不安や、楽しかったことなど、子どもの気持ちをありのままに受けとめる電話窓口として、1998年から日本各地で開設されています。

 福島県内に初めて開設された「チャイルドラインこおりやま」は、2012年9月に活動をスタート。活動開始直後の1カ月間に福島県内の子どもたちからかかってきた電話は5,000件を超えます。しかし、受け手の不足により、その内電話で話せたのは、わずか1,000件。子どもたちの声をきちんと受けとめ、その声を社会に届けるため、受け手の増員と傾聴の質を高める取り組みが続いています。

 

発信されたSOSをもっと受けとめたい

 東日本大震災の発災時、全国でチャイルドラインがない県は福島県を含む2県でした。チャイルドラインは全国統一フリーダイヤルですが、発信された県のラインに優先的につながります。県内に住む子どもたちからの不安や悩みの相談を受けとめられるよう、子育て支援団体や教会、メディアの関係者、公務員など11人が中心となって、立ち上げられました。

 「チャイルドラインこおりやま」は、現在、週2回16~21時に1本の回線で18歳までの子どもたちからの電話を受けています。「ヒミツはまもるよ」「名まえは言わなくてもいい」「イヤになったら、切っていい」「どんなことでも、いっしょに考える」という4つの約束のもと、地域の大人がボランティアとして子どもたちの声に耳を傾けます。

 全国のチャイルドラインを支援する「チャイルドライン支援センター」の統計データによれば、福島県内の子どもたちからの相談件数は2011年の4,009件から12年の10,101件へと約250%増加。震災の年よりも、1年以上経ってからの相談件数の方が増えています。その要因として、県内全ての小・中・高校にチャイルドラインの電話番号が書かれたカードを配布し、周知を図れたことが一つ。もう一つ考えられるのは、大きな心のダメージは、年月が経ってから悲しみや痛みとして湧き上がってくることです。そのような中で、福島の子どもたちからの発信数の約20%しか対応できていない状況があります。

 

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幅広い職種の経験豊富な理事のもと、
鈴木さん(左から2人目)と小笠原さん(左)が中心となって実務を担当。

 

子どもとともに考え伴走する「受け手」を養成

 子どもたちの声を少しでも聴く機会を増やすには、電話の受け手を増やすことが優先課題です。そこでチャイルドラインこおりやまでは、受け手養成講座に力を入れています。

 受け手になるには、全10数コマの講座を受講し、インターン(実地研修)を行い、適性判断と守秘義務などの確認が完了すると認定証が発行され、ボランティア開始という流れになります。

 養成講座では、「チャイルドラインとは?」のガイダンスから始まり、「傾聴」「子どもの権利」「虐待」「性」「不登校児など居づらさを感じている子ども」といった様々な分野について約5日間にわたる研修を受けます。受け手に求められるのは、子どもの気持ちに、ただただ寄り添うこと。想いを受けとめ、ともに考え、子どもたち自身が決めていけるように伴走することが、なにより大切です。

 子どもたちが電話で話す内容は、学校でのうれしかったこともありますが、例えば「今、仮設に家族4人で住んでいるけど、狭くて息が詰まる。はじめは家族が助かっただけでも良かったって思ったのに」「原発はなくなりますか。電気と人とどちらが大切か、大人に聞きたい」といった解決が難しいことも多く含まれています。受け手が感じる「不安感」を抱えた内容は、2013年には震災の年より3倍に増えています。

 

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地域の子育て支援団体を集めての地域連携勉強会。
官民連携での子育て環境作りのため、ワークショップを行った。

 

傾聴の質を高める「支え手」を養成

 開設当初、副理事長の鈴木綾さんと事務局長の小笠原隼人さんは「子どもの声を聞くことはできるだろう」と思っていました。難しさに気づいたのは、活動を始めてから。

「電話に出た人の声を聴いただけで、子どもは電話を切ってしまうこともあります。子どものペースを崩さないように聴くことも大事です。例えば、学校でいじめられたと聴いたとき、『無理して学校に行かなくてもいいんだよ』など子どもが思っていないかもしれないことを先走って言わないようにする」など、ただただ聴くということの難しさを痛感したと言います。

 そこで重要になるのが、受け手が価値観や思い込みからの言葉を発することなく子どもたちの喜怒哀楽に寄り添えるようにする「支え手」の存在です。「支え手」は「受け手」を支える立場。電話を受ける受け手と同席し、受け手だけでは対応しきれない相談のフォローや、受け手の心のケアなどを行います。「量だけではなく質的にも」子どもたちの声を聴ける大人を増やそうと、支え手養成講座では具体的な事例をもとに聴く力を高める方法が模索されています。

「子どもに寄り添いたい大人は多いんです。でも、言うほど簡単ではありません。団体のビジョンを共有し、地域に根づく活動にしていきたい」と話す鈴木さん。今後は寄せられた子どもたちの声を広く発信し、社会への提言につなげていくことも視野に入れ、活動を続けていきます。

 

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被災地の子どもたちから電話で寄せられた声を集計し、
地域別の特徴をチャイルドライン支援議員連盟の勉強会にて報告。

 

(2013年12月インタビュー実施)