子どもがのびのびと遊ぶ場が地域住民の交流のきっかけに
<冒険あそび場‐せんだい・みやぎネットワーク>

団体と助成の概要

 

 震災の影響により少なくなった、子どもがのびのびと遊べる場所を提供しようと「特定非営利活動法人 冒険あそび場‐せんだい・みやぎネットワーク(以下、冒険あそび場)」では、宮城県仙台市若林区内5ヵ所で“あそび場”を出張開催しています。

 

乳幼児を抱える父母が集う室内型あそび場

公会堂に明るい笑い声が響きます

 2012年8月下旬、上荒井公会堂で、「冒険あそび場」が提供する遊び場“ちびひろ”が開催され、乳幼児を連れた母親13組が集まりました。畳張りの広い公会堂内には、段ボールや座布団、ロープ、新聞紙、毛布などがあちらこちらに置かれ、子どもたちは新聞紙をビリビリと破って遊んだり、段ボールを組み合わせてトンネルを作ったり、毛布にくるまったりと自由に遊びをつくり出します。庭ではビニールプールが登場し、ジリジリと強い日差しの中、子どもたちは全身で水遊びを楽しみました。

 参加した母親たちは「家ではなかなかこのように自由に遊ばせることができないので、子どもも楽しみにしているようです」「身近なものを使って遊ばせられるのがいい。家でも活用できそうです」と、のびのびと遊ぶ子どもたちを見て笑みをこぼします。

 母親たちは、子どもが自由に遊ぶ様を見守りながら、他の参加者との情報交換もでき「ストレス発散の場にもなっています」と語りました。

 

震災により少なくなった子どもの遊び場を再び

 「冒険あそび場」は、震災前に宮城県仙台市の海沿いにある「海岸公園冒険広場」を一般企業と共同で指定管理者として運営していました。“プレーリーダー”と呼ばれる、子どもを見守り一緒に遊ぶ大人が常駐することで、子どもがしたいことを存分に実現できる環境が整う遊び場として近隣の子どもたちで賑わっていました。しかし東日本大震災で被災し休園。さらに若林区内では、それまで子どもの遊び場だった公園・学校のグラウンドや空き地に仮設住宅が建設されたこともあり、子どもがのびのびと遊べる場所が減ってしまいました。また間借りしている学校では放課後校庭で自由に遊べないなど、子どもたちは家で過ごす時間が多くなったといいます。

段ボールを使って自由に遊ぶ子ども

 そうした状況を打開しようと、「冒険あそび場」では、遊び道具を積んだ車で公園などに出張し、子どもたちが思いっきり遊ぶことのできる“あそび場”を2011年5月から始め、現在、宮城県仙台市若林区内5ヵ所でそれぞれ週一回実施しています。子どもの遊び場づくりについて専門知識を豊富に持つプレーリーダーがつくる遊び場は、子どもたちの大きな笑顔を生み出し、回を重ねるごとに参加者が増えているといいます。

 

地域と関わるきっかけを

 “ちびひろ”は冒険あそび場が運営する5ヵ所のあそび場の中で唯一の室内型。風や雨に影響されることなく、また乳幼児を連れた父母も気軽に参加しやすい場として2012年2月より始まりました。「子どものあそび場づくりはもちろんですが、乳幼児をもつ父母たちが情報交換をしたり、不安や日々抱える子育ての悩みの発散の場となれば」とプレーリーダーの根本さん。また、若林区には沿岸部などから移住して仮設住宅や借り上げ住宅に住む家族も多いため、そうした家族たちが孤立することなく、地域と関わるきっかけをつくることも狙いです。

活動の様子を近所の人に知ってもらう活動も

 地域に根差した「冒険あそび場」の活動は今や若林区内でよく知られる存在となり、夏祭りなどのイベントであそび場コーナー開催の依頼も度々あるといいます。遊び場の活動を見た近所の高齢者が、次回のあそび場に遊び道具を持って来たりなど、近隣の住民の巻き込みも生まれています。さらにあそび場の開催予定を記載したお知らせや活動内容を紹介したパネルの作成を通じて、さらなる広報活動にも積極的です。

 

震災前からある課題に向き合いたい

左から伊東さん、根本さん、佐野さん

 「震災をきっかけにあそび場を通じた子どものケアが始まりましたが、根本にある課題は震災前からあったこと。子どもたちがのびのびと遊ぶ場所が少なかったり、地域のつながりが薄くなっていたり…。きっとまだ見えていない問題がたくさんあると思うので、私たちに何ができるのかを探りながら活動を進めていきたい」と根本さんは話します。また、これからの活動については「私たちの活動に参加することを通じて、参加する方たち自身に『地域の人たちが気軽に集まることのできる場所が必要』と認識していただき、そうした場所を地域の方の手で自らつくっていってもらえたら嬉しいですね」と希望を語りました。

 今後は、乳幼児とその父母を対象にした屋外あそび場を新しく開催する予定も。地域に密着した「冒険あそび場」の活動は、これからも子どもの遊び場づくりと共に、人と人とのつながりを広げていきます。

 

(2012年インタビュー実施)