被災地・石巻に開設した子どものための「第2のわが家」
<特定非営利活動法人 みやぎ子ども養育支援の会>

団体と助成の概要

 

 宮城県石巻市には、東日本大震災前から児童養護施設がなく、家庭での養育が難しい子どもは50㎞以上離れた仙台市の児童養護施設に入所する状況にありました。また、もともと沿岸部では、20~30代の若い世代や子育て世代が安定して就業できる場や、子どもを預ける先が限られているなど、過疎化や少子化が進み、子どもの居場所が少ない環境でもありました。 

 そういった背景に加え、津波の甚大な被害によって、県内の震災遺児・孤児は1,059人(2014年7月現在・宮城県調べ)にもおよび、震災後、子どもの養育環境はさらに深刻化。石巻市内の寺の住職である木村孝禅さんは「子どもの受け皿が圧倒的に不足していた。必要と感じても、実際に取り組む人がいない。それなら自分が」と自宅を改装。「みやぎ子ども養育支援の会」を立ち上げ、「子どもの家きむら」を2012年6月に開設。2014年3月現在、緊急一時保護を含む4人の子どもを受け入れ、自立を見据えた支援を行っています。

 

傾聴から必要性を感じファミリーホームを設立

 家庭で養育を受けることができない子どもには、保護者に代わって社会が養育・保護する「社会的養護」があります。その種類には、「児童養護施設」「ファミリーホーム」「里親」などがあり、ファミリーホームは施設と里親の中間的な存在です。

 認定心理士でもある木村さんがファミリーホームの設立を思い立ったのは、避難所や仮設住宅で傾聴を行っていた際のこと。両親が不在で夜遅くまで部屋に戻らない子どもや、市外の児童養護施設に預けた子どもになかなか会いに行けない母親の状況を知ったからです。「子どもの居場所が近くにあれば、保護者が子どもを訪ねる機会は増加するでしょうし、親を亡くした子どもをみている高齢の祖父母の負担も軽減できる。寺への相談が増えた親世代のうつの対応にもなるのでは」と、木村さんはまず養育里親となって自宅に子どもを受け入れ。その後、ファミリーホームを設立しました。

 自宅敷地内にある2階建てのホームには現在、震災被害にあった子ども、発達障がいや不登校、DV、経済的な事情などを抱えた、1歳から高校生まで4人の子どもが生活しています。

ファミリーホーム内のリビングキッチン。
「餃子を1人40個食べることも」と子どもの旺盛な食欲にスタッフ(保育士)が応える。

 

経験豊富な専門スタッフが寄り添う

 子どもを見守るのは木村さん夫妻と、保健所などでの経験が豊富な副理事長桜井恭仁さん、児童養護施設での経験が豊富な保育士など7人です。子どもが学校から帰ってきたときは必ずスタッフの誰かがいて「おかえり」と迎え、言葉を交わします。

 子どもは育ってきた環境が様々で、基本的な生活が整っていないことや、心のケアが必要なこともあります。日常の何気ない中で、食事づくりの中で、スタッフそれぞれの立場から子どもに二重三重に関わり、子どもに寄り添って時に悩みの相談にものります。木村さんも夕食時に子どもとテーブルを囲み、学校のこと、普段のことを父親のように話します。その日々を重ね、子ども自身が「自分の居場所がここにある」と思う自尊心を育み、自立を目指すようにしているのです。

木村孝禅さん夫妻(左)と、保育士資格などのある専門スタッフが、
子どもの自立を支えるためホームで養育にあたる。

 

3食きちんと食べて生活を整える

  副理事長の桜井さんは「井上ひさしさんの劇中歌の歌詞『三度のごはん きちんと食べて 火の用心 元気で生きよう きっとね』をホームの家訓にしたいと思っているんです」と話します。食事を担当するスタッフは「好き嫌いが多いんです、うちの子たち。できるだけリクエストに応えてあげたい思って」と、ある日の夕食には中学生が要望したすき焼きが並びました。

 木村さんも「手をかけた食事が3度食べられるように、基本的な生活習慣を身につけるようにと思っているんです。ごはん、お風呂、起床、休日の部屋の片付けは約束事ですが、それ以外は決めず、子どもの自主性を尊重しています。社会に出て自立して生きていくことが、その子にとって最善なので」。 

 そんな毎日の積み重ねに加え、受験を控えた中高生からの進路選択をはじめとする悩みにも、スタッフが親身に相談にのります。心の浮き沈みや反抗期にも向き合い、信頼関係を積み重ねていく。「ひるまず、放り出さず、動揺しない大人の姿を見せるのも大事」と取り組んでいます。

動物園や温泉などの社会学習の機会も。
県外に出たことのない子どもも被災地から離れてリフレッシュし、視野を広げる。

 

家庭外のネットワークを広げ見守り続けたい

 ホームとしての一体感を得られたのが、助成によって実現した社会学習体験です。これまで一度も県外に出たことがない子どもが多い中、初めて新幹線に乗り、温泉宿やホテルに宿泊するなど、日常から離れ、リフレッシュの機会を設けることができました。

 制度として、ファミリーホームは18歳までの子どもが対象となっていますが、木村さんは「自立のさまたげにならないようにと思ってはいますが、18歳以降も何か困ったときには頼ってきてほしい。戻ってきたいときには、週1回でも戻っておいで、と。そして、ホームを出た後も見守ってもらえるように、全国で子どもを気にかけてくれる人を増やしたい」と話します。養育期間以降も、全国各地で子どもの社会参加をサポートできる体制づくりを目指し、活動を続けています。

(2014年3月インタビュー実施)