本の力で人をつなぎ、より魅力ある新しいまちに
<一般社団法人 ISHINOMAKI 2.0>

団体と助成の概要

 

 東日本大震災による津波被害で流失した本の代わりに、地域外から新しく本を届けようという想いをきっかけに宮城県石巻市の商店街で開催された「一箱古本市」。フリーマーケット型の古本市として、誰もが「店主」になり思い思いに本を並べました。2012年から毎年7月、これまで2回開催され、石巻市内だけでなく仙台や東京からも本好きが集まり、たくさんのつながりが生まれました。

 2013年7月には、一箱古本市をきっかけに「まちの本棚」がオープン。図書館のように本に触れられるだけでなく、本をキーワードにしたワークショップが開催され、コミュニティスペースとしても活用されています。

 

様々な人たちの手で、石巻を新しいまちに 

 石巻はかつて遠洋漁業の港町として栄え、駅前には映画館や書店など様々な商店が並び賑わいを見せていました。しかし漁港の移転や経済の落ち込みにより、次第に商店街はシャッター通りへと変化。若者たちは、まちに魅力を感じられず市外へ流出し、経済・文化の停滞が続いていました。そんな中、東日本大震災が発災。石巻市は震災直接死だけで3,000人にのぼり、宮城県内で最大の人的被害を受けました。

 「一箱古本市」や「まちの本棚」を主催・運営する「ISHINOMAKI2.0」は、「石巻を3.11前の状態に戻すだけでなく、新しい石巻に」と、2011年5月に設立されました。石巻で被災した松村豪太さんと首都圏から駆け付けた支援者をはじめ、首都圏でも「石巻を支援したい」とネットワークが広がり、建築家や編集者、大学の准教授など様々な職業の人たちがメンバーとして名を連ねています。

 

10年以上前に書店だった店舗を修繕した「まちの本棚」。
壁塗りや棚づくりなど、地元住民も参加しながら完成させた。

 

本の力で人と人とをつなげていく

 2012年7月に第一回が開催された「一箱古本市」は、東京を中心に被災地へ本を送る活動をしている「一箱本送り隊」との協働イベント。当日はたくさんの本好きが石巻内外から集まり「本が人と人とをつなげるきっかけになると実感した」とISHINOMAKI2.0の理事、勝邦義さんは振り返ります。そこで「本を通じたコミュニティスペースが日常的にあったら」と、場の開設に向け動き始めました。色々な人に関わってほしいと新聞などで呼びかけを行い、地域住民も交えてスペースの名前や活用方法など、話し合いが重ねられました。

 そして2013年春、石巻駅から歩いて10分ほどの商店街にある、以前は書店だった空き店舗を借りることに。この場所にも2m以上の津波が押し寄せ復旧できていない状態だったことから、修繕にも一から取り組みました。「左官職人を呼んだ漆喰壁塗りのワークショップは特に好評でした。場所づくりに関わることで、愛着がより深まったように思います」(勝さん)。

 こうして、2013年7月に「まちの本棚」をオープン。棚にズラリと並ぶのは、一箱本送り隊の呼びかけによって全国から送られてきた1,000冊もの本。オープンから次第に利用者が増え、貸出カードは約半年で80枚ほど発行されています。「地元の小学生が友達と本を紹介し合ったり、一方が買い物をしている間に本を読みながら待っている夫婦がいたり」と勝さんは話し、様々な人が集う場所となっている様子。店番のスタッフとの交流を楽しみにしている人も多いようで、本の感想を語り合うこともあると言います。

 また、スペースを生かし、石巻にゆかりのある著名人を招いた本に関するトークイベントなどを開催。こうしたイベントやワークショップを目当てに来る地域外からの人の呼び込みにもつながりました。

 

「まちの本棚」オープンに向けた、漆喰壁を塗るワークショップ。
左官職人と地域住民とのつながりが生まれた。

 

地域内・外を結ぶ交流の場「一箱古本市」

  「まちの本棚」オープン日に合わせて、一箱古本市が2日間にわたり開催。商店街の店先で約30人が出店し、石巻市内外からたくさんの本好きが訪れました。一箱古本市のおもしろさの一つに、店主との触れ合いがあります。「例えば普通の観光だったら、景色を見て帰ってしまうことが多いじゃないですか。でも一箱古本市では、地元住民である店主と本をきっかけにして色々話せるんですよね。『地元の人と話せて良かった』という声も多いです」。また一箱古本市が、地元の魅力を発見し、つながるきっかけになったことも。「東京に住んでいてなかなか帰るきっかけがなかったけど、古本市に参加するために石巻に帰ってきたという人もいました。地元に関わるきっかけをつくれたのはうれしかったですね」(勝さん)。

 

2013年の「一箱古本市」の開催日には石巻内外から「店主」こだわりの本が集まり、
1,000冊以上の本が並んだ。

 

復興の拠点として、まちを盛り上げていく

 「まちの本棚は、場所というより人がリンクするところ」と勝さんは言います。「まちの復興に関わりたい人の受け皿の役割を果たしているんだと思います。様々な職種の人がいて、色々な関わり方ができますから」。

 「まちの本棚をきっかけに、『石巻で他の素敵な場所を見つけた』『次はここに行ってみよう』など、まち全体が盛り上がっていけばいいなと。それは必ずしも地元の人だけじゃなくて色々な人が関われるように、常にオープンでいたいですね」。ISHINOMAKI2.0は、地域住民だけでなく地域外の人との関わりを増やしながら、より魅力あるまちづくりを進めています。

(2014年4月インタビュー実施)