興味の芽を伸ばす体験プログラムで心の居場所づくり
<特定非営利活動法人 まきばフリースクール>

団体と助成の概要

 

 宮城県内の全中学生に占める不登校者の割合を示す「不登校出現率」は、東日本大震災前から全国に比べて高く、震災後はその影響も加わり、全国で最多の3.17%に上ります(2013年度文部科学省調べ)。

 宮城県栗原市で活動する「まきばフリースクール」は1999年の開設以来、不登校やひきこもり、発達障がいなどで生きづらさを抱える子どもを受け入れてきました。行き場のない子どもが、安心して過ごせる居場所を提供し、子どもの関心に応じて参加できるプログラムも用意されています。

 スポーツを中心とするプログラムは子どもがのびのびと体を動かせる一方で、運動をあまり好まない子どもは仲間に入りづらいという課題がありました。そのため、個々の子どもにしっかり向き合う専従スタッフを、助成金を活用することで確保し、興味や関心に対応した室内プログラムを拡充。子どもの自尊心を高め、外の世界につながっていけるようにサポートしています。

 

敷地内に点在する小さな建物内では、楽器を演奏したり、料理をつくったり。
子ども自身の「やりたいこと」に取り組める。

 

生きづらさを抱える子どもの居場所に 

 家庭や社会に生きづらさを抱えている子どもを、まきばフリースクールでは月曜から金曜の9~17時まで受け入れ、小学生から20歳前後が利用しています。障がいの有無や年齢、性別で分けることなく、共に時間を過ごし、その子どもらしく成長し、周囲と調和し、安心して生きることができるように、見守り、支えています。

 定期的に通う子どもも、不定期で通う子どももいますが、スタッフの櫻井由紀さんは「プログラムへの全員参加を義務付けるわけではなく、参加しないときも特に理由は聞かず、様子を見て声をかける」など子どもの気持ちを尊重し、柔軟に対応しています。

 

スポーツに加え、室内プログラムを充実

 従来からのプログラムは、フットサルや釣り、球技などスポーツが中心でした。スタッフの間でも別の体験メニューの必要性を感じていたとき、「子どもからの声もあったんです。『インドア系つくったほうがいいんじゃない?』と。それは、真剣勝負のフットサルに入れない年下の小学生のことを思ってのことで。子どもは自分がしんどい思いをしていても、自分以外のことはよく見えて、他の子を支えようとするんです」と櫻井さん。子どもの声が発端となって、プログラムの刷新が決まりました。

 新たなプログラムは、自由に好きなものを選びたい子ども、決められたことに参加したい子ども、それぞれのニーズに対応しています。小物をつくる「手芸」プログラム、それらを販売する「店番」プログラム、「お菓子づくり」プログラム、スタッフの中山崇志さんオリジナルプログラムで、物づくりやアウトドアも行う「中山クラス」などが始まりました。

 

新プログラムの一つ「中山クラス」を担当するスタッフの中山崇志さん。
キャンプや手づくりのゲームなど、子どもも大喜び。

 

物づくりをしながら子どもの小さな声を聞く

  手芸プログラムでは、ストラップやポーチなどを、子どもと櫻井さんがそれぞれつくっていきます。「ちくちく縫いながら話すと、にぎやかなときには出てこない本音が出てきて、子どもから『いっぱい話してスッキリしました』と言われることも。手を動かしながらお話しすると、視線を合わせないせいか本音が出やすく、手芸の力を借りて傾聴している感じです」。

 料理の得意な子どもが自発的に担当する料理プログラムでは、「みんなが食べられるように、麻婆豆腐は辛口と甘口の2種類をつくったり、他の子どもの誕生日にケーキを手づくりしたり。わざわざ家で試作をしてから、ここでつくるんです。そういう子どもは、優しすぎるから人との関係に傷ついて疲れてしまうこともあって。だからこそ、人との関わりで癒されていくことが必要」と話す櫻井さん。

 子ども一人ひとりに向き合い、子どもが得意とすることを褒め、伸ばすことで、自尊心を高めていきたいと考えています。

 

近隣に借りた畑「まきばたけ」で、年間を通して農作業体験も行う。
収穫した野菜を使って、子どもが料理をつくることも。

 

自分らしく成長しようとする子どもを応援

 子どもが「やってみたい」と思ったときには、スタッフは芽生えた意欲に寄り添い、実現できるように計画に一緒に付き合います。それでも、計画を立ててから、急に来なくなったり、引きこもったり、本人が怖くなってブレーキをかけることもあると言います。「1歩進んで、2、3歩下がる子どももいますが、できないことがあってもいい、他の人と助け合ってできることを伝えたいと思っています」。

 スタッフが丁寧に向き合い、活動を通して年齢を超えたつながりができてくると、周囲の人への心づかいができるようになってきます。「自分のことだけで精一杯だった子どもが周りを見えるようになり、客観性を高め未来の自分に近づいていける」と話す櫻井さんは、そうした子どもの変化を感じ取ってきました。

 助成によってスタッフが専従となり、プログラムで子どもに寄り添う時間を多くもてるようになったことで、個別のニーズに早く的確な対応ができるようになりました。そして、子どもと一緒に体験して、楽しみ方を見せて、思いを共有することで信頼関係を築いています。櫻井さんをはじめスタッフは「子どもにとって安心できる場所であり、帰ってこられる場所であり、挑戦へと旅立てる場所でありたい」と願い、活動を続けています。

(2014年3月インタビュー実施)