食物アレルギーを持つ子どもが安心して暮らせる環境づくり
<アレルギーの子を持つ親の会 あっぷるんるんくらぶ>

団体と助成の概要

 

 

 食物アレルギー疾患の子どもは全国的に増加していますが、治療法が確立していない上、社会的な理解が不足しているために苦しんでいる子どもや家族も多いと言います。宮城県内の当事者が中心となって1990年に立ちあげた「アレルギーの子を持つ親の会 あっぷるんるんくらぶ」は、「アレルギーを持つ子どもも大人も安心して暮らせる環境づくり」を目指し、勉強会や行政への政策提言など様々な活動を行ってきました。

 東日本大震災発災後は、「避難先で必要な食品や医薬品が入手できず命の危険にさらされる子どももいた」という教訓を生かし、「災害時にいかに子どもを守るか」に注力。2013年度は、食べられない食材などの情報が周囲の人にもひと目で分かる「食物アレルギー防災カードセット」を作成。さらに震災後に増加している「化学物質過敏症」の患者へのサポートも始めています。

 

専門的な知識を元に患者と家族をサポート

 代表の三田久美さんによると、「子どもの頃、食物アレルギーで苦しんだ経験がある夫(故人)が『同じように苦しんでいる人の力になりたい』という思いから団体を立ち上げ、私が後を引き継ぎました」。日本で食物アレルギーが病気として認知されたのは欧米より遅い約30年前で、今も専門医が不足しているのが現状。まして一般の人には理解されにくく、「給食が食べられないために学校でいじめに遭った、幼稚園の入園を断られたなど、苦労している人がたくさんいたんです」。

 三田さんらは、日本小児アレルギー学会などに参加して知識や情報を蓄積。それを患者や家族に分かりやすく伝える「医療面のサポート」と、「自分たちが声を挙げることで道を開くための政策提言」に努め、仙台市においては全国に先駆け「食物アレルギー対応の手引き」が学校に配布されるなどの成果を挙げています。

 

代表の三田久美さんとスタッフの柳井智和さん。

活動拠点であるアレルギー対応食品の専門店「ヘルシーハット」(仙台市)にて。

 

食物アレルギーの子どもが思う存分楽しめる交流会

 もう一つ、設立当初から力を入れているのが、子どもと家族のストレス発散を図った交流活動。特に年1回開催する「ナチュラルディナー」――牛乳・卵・小麦などアレルゲンとなる食材を除いた料理をバイキング形式で提供する集いは「子どもが最も楽しみにしているイベント」で、毎回100人以上が参加しています。

 「アレルギーを持つ子どもの大半は外食する機会が持てずにいますが、この日は『あれを食べちゃダメ』と言われることなく、家族や友だちと食事が楽しめる。『こんなに食べたのは初めて』というくらい何度もお代わりして食べたり、アレルギーを持つ子どものきょうだい同士も意気投合して仲良くなったり。そういうわが子の姿を見て親も勇気づけられます」(三田さん)。

 また年2回開催する「農業体験」は、子どもの食育を兼ねた交流会。無農薬の田んぼで田植え・稲刈りを行い、レクリエーションも楽しみます。特に牛乳・卵・小麦を使わない米粉のパンを使った「パン食い競争」は子どもに大好評(冒頭の写真参照)。学校の運動会では参加したくてもできないだけに、1回では飽き足らず、何度も競争に参加する子どももいるそうです。

 

食物アレルギーの専門医を招いて開催した講演会。

最新の治療法について学べる格好の機会とあって80人以上の患者や家族が参加。

 

災害時に役立つ「食物アレルギー防災カードセット」

 東日本大震災に際しては、被災したアレルギー患者に必要な物品を届けるなどの支援に尽力。そこで改めて痛感したのが「患者に対する周囲の無理解」だったと言います。避難所で配布される支援物資に食物アレルギー患者が食べられる物は少なく、「菓子パンやカップ麺が『食べられない』と言うと、『わがままだ』と怒られる。間違ってアレルゲンを含むものを食べ、ショック症状を起こす子どももいました」(三田さん)。

 そこで「次に大災害が起こった時の備え」として作成したのが、全国どこでも使える4種類の「食物アレルギー防災カード」。2つは子ども・保護者がそれぞれ持ち歩く携帯用カードで、子ども用には保護者の連絡先などの基本情報の他、食べられない食材・かかりつけ医・服用薬などの書き込み欄があり、親とはぐれた際も支援が受けられるよう配慮されています。また大小2種類の「お知らせカード」は、避難先で衣服や掲示板に貼り、アレルギーがあることを周りに知ってもらうためのもの。そして「自分で貼る!助けてポスター」は、避難所の掲示板などに貼って自ら積極的に助けを求めるためのものです。1,000部を無料で配布し、全国の希望者にも郵送を始めました。

 

防水加工の「食物アレルギー防災カード」。

保護者用の携帯カードには、災害時に子どもを守るためのマニュアルが記されている。

 

「化学物質過敏症」を当事者として支援

 震災から数カ月後、壊れた建物の改修工事が増えるのにともない、「化学物質過敏症、いわゆるシックハウス症候群の相談も増加している」と三田さん。中には、学校の補修工事をきっかけに発症し、「ワックスや粘土の臭いをかいだだけでも頭痛がしたり、石鹸を使うと手が腫れあがったりして、学校に通えなくなった子どももいる」とか。実は三田さん自身も発症し、頭痛・腹痛・めまいなどの症状に苦しんでいます。

 「阪神淡路大震災後も、化学物質過敏症の患者が増加した」という事例を踏まえ、今後も被災地での増加が予想されることから、同団体は患者への聞き取り調査を実施。原因物質・症状・対応策など、当事者にとって役立つ情報をまとめた冊子を発行する予定です。

 「患者の実情を周知し、少しでも理解者を増やすことで、重篤なアレルギーを持つ子どもも生活がしやすくなるはず。スタッフとともにこれからも頑張っていきます」と、三田さんは笑顔で話してくれました。

 

(2014年7月インタビュー実施)