子どもから高齢者まで、多世代が集まる地域の「居場所」
<特定非営利活動法人 「居場所」創造プロジェクト>

団体と助成の概要

 

 

 岩手県の沿岸部にある大船渡市は、東日本大震災の津波などによって大きな被害を受けた地域。死者・行方不明者は400名以上、5,500世帯以上が建物被害を受けました。そんな大船渡市の高台に、被災した高齢者を応援したいという海外からの支援を受けて、2013年6月に誕生したのが「居場所ハウス」です。運営するのは「(特活)「居場所」創造プロジェクト」。震災前から高齢化が課題になっていた地域でもあり、高齢者が主体となって運営し、多世代が交流する“居場所”をつくることで地域の再生を目指しています。

 

古民家を改装した「居場所ハウス」の和室を利用したひな祭りイベント。
子どもたちもいっしょに飾り付けを手伝った。

 

「ここに来るのが、生きがいなんだ」

 「居場所ハウス」が出来るまでには、何度も準備のためのワークショップが開かれました。どんな場所にしたいか、何をやってみたいかなど、地域の人たちで話し合いを重ねてきました。そのなかで、「高齢者が役割を持てる場所」「自由に来て、好きなことができる場所」というコンセプトが出来ていったと言います。

 「私は途中からワークショップに参加したのですが、みんな『地域にこんな場所がほしい』と盛り上がっていて、居場所へのニーズをすごく感じました。この地域は近くにお店も少なくて、車がないとどこにも行けない。特に高齢者が集まれる場所がなかったんです」。そう話すのは、居場所ハウスの館長を務める鈴木軍平さん。以前は地域にある公民館の館長をしていました。

 居場所ハウスは、鈴木さんたち地域住民が主体となり、パートやボランティアの“おたすけ隊”と一緒に運営をしています。古民家を改装した開放的なスペースには、いろいろな人が立ち寄り、お茶を飲んでおしゃべりを楽しんだり、放課後には子どもたちが図書スペースの本を読みに来たり、宿題をしたりと、自由に過ごしています。地域にはひとり暮らしの高齢者も多く、毎日のように通っているという92歳のおばあさんは、「家にいても誰とも話さないから、ここに来て過ごすのが生きがいなんだ」と言います。

 さらに、地域の人たちが自分の得意なことを生かして、囲碁、生け花、カラオケ、郷土料理などの講師となって教室も開催。クリスマス会やひな飾りなど、子ども向けのイベントも定期的に行っています。

 オープンから2年。しかしながら、ここまで運営していくのは簡単ではありませんでした。
 「NPOが何なのかもよくわからないままスタートしたんです。1年目は体制を整えることに時間がかかりました。助成を活用することで、2年目になって少しずつワークショップで出ていた要望を実現していけるようになりました。今は、長く続けていくための資金づくりが課題ですね」と鈴木さん。

 

地域の人が講師となって教える生け花教室は毎回人気。
ほかにも囲碁や郷土料理など、地域の人の特技を生かして教室を開催。

 

居場所ファームや朝市、食堂もスタート

 居場所ハウスで月1~2回開催している朝市も、そうした資金づくりになればと考えて始めたもの。地域のお店を中心に、10店ほどが参加。魚屋、和菓子屋などの食品から、洋服、手芸品、雑貨などのお店が並びます。こうしたイベントのときには、市内の仮設住宅からの無料シャトルバスも出しているそうです。

 「車がないと買い物が不便な地域なので、朝市はとても喜ばれています。ここで知り合いと再会して、子どもに戻ったような顔で話しこむおばあちゃんたちを見ていると、やってよかったなと思うんですよね。私たちが『居場所ファーム』と呼ぶ農園で育てた野菜も販売してるんですよ」と鈴木さん。

 ボランティアを集めて野菜などを栽培する居場所ファームでは、体験農業イベントや収穫祭なども行っていて、仮設住宅で暮らす親子が参加することもあるそうです。また、収穫した野菜は、今年5月にオープンした食堂「料理ハウス」でも利用されています。

 「料理ハウスも自主事業のひとつとして始めたものです。そばやうどん、カレーライスなどのランチを出しています。このあたりは飲食店もないし、ひとり暮らしの高齢者の人も、ここに来ればみんなとお昼を食べられる。1食300~350円という値段も、誰もが来やすいようにと、みんなで考えた値段です」。

 他にも、学校の振替休日に、子どもを一時預かりする「わらしっこ見守り隊」がスタート。元先生や保母さん、子ども好きの人など、地域のボランティア13名が登録しているそうです。

 

月1~2回、土曜日に居場所ハウスの敷地で開かれる朝市。
近くにお店が少ないため、新鮮な野菜や魚が手に入る朝市は貴重。

 

地域での孤立を防ぎ、誰もが来られる場所に

 高台にある居場所ハウスの周りには、仮設住宅からの移転先となる災害復興住宅と防災集団移転による住宅が建設中で、今年度中には約100世帯が転居してくる予定です。

 「災害復興住宅ができれば、ここはますます地域の重要な場所になると思います。阪神淡路大震災のときのような、孤立や孤独死を防ぐためにも、いろいろな人が集まれる場所にしていきたい。朝市や食堂などをやることで、新しい人たちにとっても集まりやすい場所になればと思っているんです」。

 居場所ハウスを子どもから大人まで、誰もが気軽に楽しく過ごせる場所にしていきたいと話す鈴木さん。
 「自分も70歳。『よく頑張るね』と言われることもあるけど、今では、自分にとってもここが居場所なんだよね。何より来ている人の笑顔が力になる。この居場所ハウスをずっと続けられるように、仲間を増やして、運営を軌道にのせるのが今の目標です」と笑顔で話してくれました。

 

(2015年6月インタビュー実施)