住民主体の復興会議運営をサポート
<特定非営利活動法人 いわて地域づくり支援センター>

団体と助成の概要

 

 東日本大震災の津波被害で甚大な被害を受けた沿岸部では、浸水地のかさ上げとともに、高台や内陸などへの集団移転に向けて、行政や住民が議論を重ねています。集団移転を検討している地域の一つである、岩手県大船渡市三陸町の崎浜集落では、自治会が主体となって地域の復興計画を策定しています。約200世帯、約600人が住んでいた崎浜集落では、約50世帯の住宅が全壊。住民の多くは、高台にある廃校となった小学校校庭の仮設住宅と、北里大学三陸キャンパスの学生向けにたくさんあったアパートへ入居しました。

 

崎浜復興会議の立ち上げ

復興会議での高台移転についての議論の様子

 地域で管理する林を持つ崎浜集落では、自治会の役割が大きく、2011年6月には自治会が中心となり、崎浜復興会議を立ち上げました。地域づくりに関して地域住民と行政をつなぐ中間支援でノウハウを持つNPO法人いわて地域づくり支援センターでは、ワークショップ形式を導入して復興会議の運営をサポートするなど、住民主体で合意形成を手伝っています。

 「地元の住民だけでは、何をすれば良いのか分からなかった」と話すのは、復興会議メンバーで自治会長の遠藤喜隆さん。今回協力を仰いだいわて地域づくり支援センターとは、2007年から地域交流事業で支援を受けており、良好な関係を築いていました。遠藤自治会長は「もともと関係もあって『この人たちなら』と思った。会議には廣田先生も参加すると言ってくれたので、復興会議を立ち上げることができた。とても助かっている」と振り返ります。廣田先生とは、岩手大農学部教授で支援センター理事長の廣田純一さん。第二回会議から廣田理事長と支援センター事務局長の若菜千穂さん、岩手大の学生たちが参加し、復興会議事務局と協力しながらワークショップを運営しています。回を重ねるごとに被災者や女性の参加者が増え、復興会議委員として22人のメンバーが月に一度の会議に臨んでいます。

 

ワークショップ形式で活発な意見交換を

活発な意見交換で付せんの数も増える

 ワークショップでは、参加者が3つのグループに分かれて、テーマについて意見を交わします。意見は付せんにまとめて分類するなどして、最後にはグループごとに結果を発表します。

 これまでに、地域コミュニティを維持するための課題や堤防の高さなど具体的なテーマを議論してきました。高台移転の候補地についても、会議の結果としていくつかの案を行政に示すことができました。12年2月に行われた第六回会議では、行政からの返答を受けて、再度、候補地の適性や問題点について話し合いました。

 ワークショップのテーマ設定や資料作成を行う若菜事務局長は「私たちは、皆さんに自分たちでやるべきことに気付いてもらい、自分たちでできるようにお手伝いしているだけ。被災地域にはいろんな問題があるけれど、集団移転が決まらないと、住民も他の問題に取り組めない」と、一連のワークショップを通じて感じた被災地の現状を訴えます。そんな中で、高台移転や堤防の高さについては、行政から復興会議での意見集約を委託されており、行政からも期待される存在となっています。

 

地域全体で取り組む復興会議

女性ならではの視点も復興計画に反映

 遠藤自治会長は「復興会議メンバーの中には、被害がほとんど無かった人もいるが、復興には地域全体で取り組まなければならないと考えた」と、復興会議の重要性を説きます。自治会は古くから地域の合意形成をリードしてきましたが、自治会員のほとんどは高齢の男性。女性の意見に耳を傾ける機会はほとんどありませんでした。支援センターの助言もあり、復興会議には22人中8人の女性メンバーが名を連ねます。遠藤自治会長は、ワークショップ形式の会議運営について「一人ひとりの意見が形になるから、活発に意見が出るようになった」と、支援センターの参加効果を評価します。

 支援センターの廣田理事長は「地域のことを知っている人たちが、地域の将来を考えるのは合理的なこと。まとまったコミュニティがあった地域での復興計画策定は、こういう風にあるべきだ」ときっぱり。その上で「図面を書いたり、ワークショップをリードしたりと、技術的な支援は必要だ」(廣田理事長)と言います。若菜事務局長も「被災という特殊な状況下で、地域住民だけで議論するのはとても難しい。行政と地域の間に入って、中間支援することも大事。前向きで『ふるさとを何とかしたい』と考える方々と一緒に活動することで、お互いに良い影響を受けている」と語ります。

 

「復興会議にゴールはない」

崎浜復興会議のメンバー

 高台移転の議論の進捗に合わせて、いわて地域づくり支援センターでは、復興会議メンバーと一緒に被災世帯の全戸訪問調査を行う方針です。3月末には、集団移転の先行事例を学ぶために、復興会議のメンバーで新潟県山古志村の復興住宅を視察しました。そして各地に散らばる崎浜集落出身者に、地元の今を知ってもらうためにも、震災と復興の記録集作成と発送も復興会議で行う予定です。「復興会議にゴールは無い」と語る遠藤自治会長と共に、いわて地域づくり支援センターは「お手伝い」の立場から、被災者に寄り添った支援を継続します。