居場所づくりで広がる、避難者たちの「ほっこり」
<ハート&アート空間ビーアイ>

団体と助成の概要

 

 震災による影響で福島県から県外への避難者数は6万人以上(2012年9月、復興庁調べ)。隣接する宮城県にも多くの避難者が身を寄せていて、子どもの健康を考えた母子のみでの避難者が多く移住しています。母親たちは相談する場所や居場所を必要としていますが、そういった場所が少なく、家に子どもとこもりがちになってしまう母子も少なくないようです。

そんな中、仙台市の「ハート&アート空間ビーアイ」では、福島県から仙台市に避難している母子へ向けた集いの場「ふくしまほっこりカフェ」を週一回開催しています。

 

身近な花を使ったフラワーアレンジメント

スタッフの庭などから集めた草花

 両壁に貼られた子どもたちの絵のトンネルを通り2階に上がると、「ビーアイ」に到着。この日の「ふくしまほっこりカフェ」には5組の母子が参加し、身近な草花を利用したフラワーアレンジメント教室が開かれました。テーブルの上には色とりどりの草花がズラリ。「この花は、うちの庭から摘んできたの。これは、来る途中の道端に咲いていた草ね」と、コーディネーターの清水さん。ビーアイの関口玲子代表がカラカラと笑いながら花を並べていきます。

 参加者たちは、それぞれ好きな花を選び、はさみで茎を切りバランスを見ながら、小さなカップの中に思い思いに花を活けていきます。「あら~素敵!」「バランスがいいですね」と、スタッフの槇島さんが母親たちに声をかけると「僕もやる!」と4歳の男の子もはさみを使って茎を切り、自分の作品を完成させていました。

子どもと一緒に楽しく作品づくり

 参加者の一人、小学生の子どもを持ち母子で南相馬から2011年の10月から仙台市へ避難している母親は「こどもを小学校に送り出した後の時間は、何か用事がないと外に出る機会がなくて。こうした場があることを知人から聞いて、2012年6月から参加するようになりました」と微笑みます。また別の母親は「仙台に実家がありこちらで出産したけれど、現在は夫のいる福島県に帰っています。子どもの定期検診などで仙台に帰ってきたときに利用させてもらってます」と話し、様々な状況の母親たちが集える場となっていることが伺えました。

 

不安や思いを言葉に

自然と福島の話題も

 フラワーアレンジメントの作品が完成すると、母親同士でお茶を飲みながら雑談が始まります。話題は自然と福島のことに。どこに福島県からの避難者が多く住んでいるのか、食べ物はどの程度気を使って子どもに食べさせているかなど、お互いに不安に思っていることや疑問などを思い思いに話します。参加者の一人が「福島からの避難者の集まりを開きたいのだけど…」と切り出すと、「市民活動サポートセンターというところがありますよ」と槇島さんがパンフレットを渡す場面も。槇島さんは「お茶を飲んだりお菓子を食べながら、不安なこといろいろな想いを、言葉にして話せる場所がある、ということが、仙台で生活する中での安心につながってほしい」と、避難者に寄り添った姿勢を続けることを語りました。

 

日常に寄り添う大切さ

 ビーアイは震災前から、子どものためのアートの手法を用いたワークショップを行なっていて、絵を描いたり、工作をしたり、公園へ出かけたりと、子どもが自由に表現できる場所を提供しています。震災後、不安などからパニックに陥る子どもたちを見て『早くいつもと同じ状況に戻すことが大事』と、震災後間もない時期から通常のワークショップを再開させました。

左から槇島さん、関口代表、清水さん

 その後、福島県から避難している人が仙台に多くいることを知り、単発のイベントではなく持続性のある居場所が避難者たちにも必要と考え、2012年5月から「ふくしまほっこりカフェ」を開催するようになりました。清水さんは「福島県からの避難者は、情報が少ないことや周りに相談できる人がおらず、肩身の狭い思いをして過ごしている人も少なくありません。家にこもりがちになってしまう母子のためにも、気分を変える場所として利用してもらえたら」と話します。

 「ふくしまほっこりカフェ」では、お茶を飲みながら情報交換をしたり悩みや不安をお互いに話し合う場ですが、そのうち、ヨガや料理教室、フリーマーケットなど、母親たちから「やってみたい」が少しずつ出るようになってきたといいます。「お母さんたちが決めたことを私たちはサポートする立場でいたいと思っています。いずれは、避難者自身で会を企画し、仙台での生活を楽しんでもらえたら」と清水さんは話します。

仙台で暮らす福島県からの避難者へ向けた広報活動が今後の課題。ツイッターやメーリングリスト、チラシづくりにも力をいれ、潜在する避難者へ発信し、不安や悩みを一人で抱え込まずに外に出られるようきっかけづくりを続けています。

不安が少し軽くなったり、仙台の生活が楽しくなったり、前向きに過ごせたり…。避難を続ける母子たちにそんな時間と空間を提供する「ふくしまほっこりカフェ」です。

 

(2012年インタビュー実施)