緑化活動を切り口に、まちの人々との交流と防災体制づくりをサポート
<特定非営利活動法人 みどりと自然を育む会>

団体と助成の概要

 

 

 岩手県大槌町桜木地区は、東日本大震災による津波被害で約400世帯のほとんどが浸水。移転する人も相次いで世帯数は約300まで減少し、塩害で公園の樹木が枯れるなどまちの景観も損なわれました。また同地区は小槌川の堤防と急斜面の山にはさまれた窪地に位置していることから、水害への備えも緊急の課題となっています。

 盛岡市を拠点に環境保全・まちづくり活動を行う「みどりと自然を育む会」は、地域の人と共に花プランターを植栽するなど、緑化活動を切り口にコミュニティの活性化をサポート。さらに地域ぐるみの防災組織づくりを目指して全世帯対象の意識調査やワークショップを実施し、防災意識の高揚に努めました。

 

緑化活動をきっかけに防災まちづくりに関わる

 同団体は、盛岡市で長く緑化推進活動に関わってきた武藤喜治さんが中心となり、2011年11月に設立されました。設立後すぐ「被災地のために何ができるか」を話し合い、2012年春から桜木地区での活動をスタートしました。

 武藤さんによると、「被災された方の癒しになればと、まちの人と一緒にチューリップの球根を堤防に植えたのが最初の活動。それがご縁でまちの人と交流するうちに『安全な避難場所がないので不安』という切実な声を耳にしました」。避難場所・避難路の整備が急務と判断した武藤さんらは住民の意見を取りまとめ、県の補助金事業を活用し、専門家に委託して避難場所の設計と用地測量を実施。現在は完成した計画書をもとに町役場が用地の買収を進めています。

 そして「ハード面の整備だけではなく、自分たちの地域は自分たちで守るという意識が大事」と考え、2013年には助成を活用して自主防災組織の立ち上げに向けた話し合いの場づくりにも注力しました。

 

まちづくりコーディネーターの進行により、防災組織づくりに向けて
住民たちが意見交換・情報共有した防災ワークショップ。

 

自主防災組織の立ち上げに向けて

 まず、3月~4月に防災に関するアンケート調査を実施。「災害時に自力で避難できるか」「災害時に困っている人がいた場合、手助けできるか」「地域のために貢献できることがあるか」などの質問に答えてもらい、集計結果を全戸に配布しました。

 調査により明らかになったこととして、「自力で避難できない」世帯が24戸ある一方、「手助けできる」・「状況により手助けする」と答えた世帯が158戸に上り、「マッチングさせることで住民全員が安全に避難することが可能」と、武藤さん。また「炊き出しに協力する」と言う栄養士や、救護・介護・無線通信・建築重機の操縦など、災害時に特技を生かし貢献できる人が相当数いることも分かりました。

 そして10月に実施したワークショップでは、アンケート結果を報告して情報共有を図った後、参加者22人が地域の人がどのように協力して防災に取り組むかを協議。武藤さんいわく、「防災組織の立ち上げには至りませんでしたが、意見交換する中で防災への意識が高まり、今後住民の方が主体となって組織化する下準備ができたと考えています」。また調査結果は、「消火・救出・炊き出し班といった役割分担を決める際に活用してもらえたら」と期待をにじませます。

 

ハンギングバスケットで外壁を美しく飾る住宅。
水やりのために外に出る機会が増え、近所付き合いも密になったとか。

 

花づくりを通して地域の人の交流を促進

 そして同団体が力を入れたもう一つの取り組みが「花と緑を増やす活動」で、春・秋の2回、プランターとハンギングバスケット各50個ほど用意し、まちの人とともに季節の花を植栽。プランターは地域の公園などに置き、ハンギングバスケットは参加者が持ち帰って自宅の外壁や玄関に飾りました。

 「まちの人が花を眺めながら憩える場所をつくることと、花づくりを通して地域の人同士が交流できるようにという2つの目的があった」と、武藤さん。狙い通り、桜木地区は「花のきれいなまち」として評判になるほど緑化が進み、当初10数人だった参加者も回を重ねるごとに増加。「震災後は家に閉じこもりがちだったけれど、花づくりに参加して知り合いが増え、毎日が楽しくなった」と話す人もいるとか。また近隣地域から花を眺めに訪れる人も増え、自然に交流の輪が広がりまちに活気が生まれるといった波及効果ももたらしています。

 

お茶会では住民同士の交流を図り、講師を招いて様々なプログラムを実施。
この日のテーマは「さをり織体験」。

 

地域コミュニティの核になるサークルも誕生

 さらに住民同士の交流を深めてもらおうと、2013年10月以降は月3回、地区内の公共施設で「お茶会」を開催。気楽におしゃべりを楽しむ他、「季節の寄せ植え」「さおり織体験」など、専門家を招いての講習会やワークショップも行い、好評を博しました。

 このような活動から誕生したのが、桜木地区の女性たちを中心とするサークル「さくらぎ花クラブ」。現在40人以上が会員登録し、花プランターの植え替えや水やり、まちの人の集いの場を設けるなどの活動を続けています。「今後はクラブの皆さんが地域コミュニティの核となり、まちの活性化に貢献してくれるのでは」と、武藤さん。花の植え替え時に同団体のスタッフが手伝いに行き、要望に応じて講師を紹介するなど、「今後も桜木地区の緑化・活性化に向けてできるかぎりのサポートをしていきたい」と、武藤さんは笑顔で話します。

 

(2015年5月インタビュー実施)